このお店の看板メニューであるパンケーキを2人で注文して、メニューを閉じた。
「今頃、真里菜、思いっきり顔にやけさせてるんだろうね」
窓から観光客が行き交う様子が見える。それを眺めながら私は呟いた。
「あー、それ想像つくな。真里菜って感情をそのまま顔に出すもんね。好き好き光線、半端ない。真里菜のそういうところ、本当に羨ましいよ」
薫も笑って頷いた。
そんな真里菜の性格と比べて薫は正反対だと思う。
心の中で思っていることを表に出せないタイプだ。強がる自分を崩せない。
「心の底から彼のことが好きって、こっちにまで伝わってくるもんね。彼と一緒にいる時の真里菜の顔は緩みまくってる」
真里菜の表情を目に浮かべ、思い出し笑いをしてしまう。
実は、私にはそういう感覚がよく分からない。
会いたくて仕方ないとか、その人を想って苦しくなるとか、そんな感情を味わったことがないのだ。
私は多分、『好き』っていうことがどんなものなのか本当の意味では分かっていないのかもしれない。
「私は、そういうの、当分いいかな。もう面倒」
薫は、深く息を吐くようにそう言うと窓の外に目をやった。
でも、本当にそうならそんなに悲しげな目をするだろうか。
そんなふうに切ない横顔になるのだろうか。
きっとまた何かを押し殺している。



