素直の向こうがわ



階段下から教室に戻るまで、泣き跡を人に見られたくなくて俯いたまま歩いた。

報告のついでに担任に見てもらった英語のノートを胸に抱き締め、廊下の床をひたすらに見る。


人の上履きの動きでぶつからないように歩いていたつもりだったけれど、通りかかった教室からの何かの音に気を取られた時、誰かにぶつかってしまった。
その反動でノートまでも落としてしまう。廊下に開いたノートが転がった。


「ごめん……」


下を向いてノートを拾おうとしたら、私より先に誰かの手がそのノートを手にしていた。


「ごめん、大丈夫か?」


その声に心がびくっと跳ね上がる。
恐る恐る見上げた先に河野がいた。


「だ、大丈夫。こっちこそよそ見しててごめん」


でもすぐに俯く。河野と視線を合わせる勇気はない。それに、泣いていたのを知られたくない。


「ちゃんと勉強してんじゃん。頑張れよ」


開いていたのノートを閉じて私に差し出す河野を思わず見てしまった。
久しぶりに聞く、河野のあの二人でいた時の声。それにまた涙腺が刺激されそうになる。


「うん。河野も、ね。じゃ」


ノートを受け取るなりその場を去る。これ以上向かい合ったままではいられない。


「松本」


背後から呼びかけられて肩を上げる。


「……なんか、あった?」


必死に笑顔を貼り付けてから、河野の方を振り返った。


「なにもないよ。じゃあね」


うかがうような河野の視線から逃れるようにすぐに歩き出した。