「もう離してよ。お願い――」
「ふざけんな」
私の手首を壁に貼り付けるように押さえ込み、激しく頭を振る私の唇を強引に塞いだ。
何度もその唇から逃れようとしたけれど、私の手首を押さえつけていたはずの河野の手が腰と首筋にきつく回されて逃れることも出来なくなった。
自由になった手で河野の肩を押したけれどびくともしなくて。
押し付けられた河野の唇の感触と私の頬に当たる眼鏡のフレームの冷たさが、私を切なくさせる。
河野との初めてのキスは、悲しすぎて涙しか出て来ない。
抵抗するのをやめた私からそっと河野の唇が離れた。
絶え間なく零れ落ちる私の涙が河野のレンズに付いていて河野までもが泣いているように見えた。
うなだれるように私から手を離し、河野が言った。
「そんなに辛い? そんなに泣くほど、俺といるの辛いのか?」
その掠れた声に、私は肯定も否定も出来ずただ俯いていた。
「そうだとしても――。俺はおまえと離れたくない」
自由になった身体に冷たい風が吹き抜けた。
ごめん。ごめん、河野――。
私はまた、河野から逃げ出した。



