「それで、おまえはどこまで勉強進んだ?」
「あ……。それは、まあ、少しは」
本当は勉強どころの心境ではなかったけれど、なんとか少しは進めておいた。
河野にがっかりされたくなかったから。
「どれどれ」
河野が私が差し出した問題集に目を落とす。
私はその横顔をそっと見つめた。
今日一日、誰かに何か嫌なこと言われたんじゃないの?
推薦受けられなくなって、本当は大変なんじゃないの?
少しは私にぶつけてくれればいいのに。
少しは私に当たってくれればいいのに。
そうでもしてくれないと私はどんなふうに河野の傍にいたらいいか分からないよ。
河野からの優しさだけを受けながら傍にいるなんて出来ない。
「くしゅん」
11月下旬の空は冷え冷えとしていた。
思わず出てしまったくしゃみを誤魔化すように私はおかずのアスパラの肉巻きを口に運ぶ。
その時、ふわっと肩に何かがかかった。
それに驚いて顔を上げると、河野の制服のブレザーが目に入った。
「いいよ。大丈夫。河野の方が風邪ひいちゃうよ」
私は慌ててそのブレザーを取ろうとする。
「いいって。俺は寒くないし。黙ってそのままにしてろ」
今の今まで河野が着ていたものだから温かくて、なんだか河野に抱きしめられているみたいで胸が締め付けられる。
河野に抱きしめられたことなんてないのにそう思った自分に苦笑する。
いつものように隣に座って、私のお弁当を食べて一緒に勉強して。
以前と何も変わらないのに、私の心だけが元に戻れない。
河野がくれる優しさを直視できない。
これまでみたいに河野を見ることが出来ない。
河野を好きだと心から笑えない。



