「やっぱり、それはまずいよね」
薫の口調に気が引けたのか、真里菜はそう言った。
でも、そう言いながらも真里菜の目はすがるように上目づかいだ。
『洋ちゃん、もう冷めちゃったのかも……』
高3になって彼が勉強に本腰を入れだして、前のように会えなくなった。
その寂しさから、ついわがままを言って電話で口論になったのだと昨日の電話で私に泣きついてきたのだ。
だから、隣のクラスにいる『洋ちゃん』からのこの申し出が、真里菜にとってどれほど嬉しいものなのかが分かってしまう。今すぐにでも飛んで行きたいだろう。
「……まあ、いいんじゃない?」
私は薫をなだめるように見た。
「勉強頑張ってる洋ちゃんとの時間は貴重だし、せっかく誘ってくれてんだもんね」
「フミ……」
考え込むようにうつむいた後、薫も頭を縦に振った。
「私ら2人で回るから、真里菜は行ってきな。せいぜい洋ちゃんと仲良くね」
薫も、もう笑顔を見せている。
「ありがとう。本当に恩にきるよ! 今度、ファミレスで何かおごるから」
ぱあっと表情を明るくした真里菜は飛び上がらんばかりの勢いだ。
そして、「ごめんね」と何度も繰り返しながら次の駅で降りて行った。
「まあ、しょうがないよね。人の恋路は邪魔するもんじゃなし」
わざとそんなことを言っておどける薫の表情は、少しだけど寂しさを浮かべていた。



