その日の夜、河野から電話がかかって来た。
(今日、うちまで来たんだろ? なんでそのまま帰った?)
河野の声はいつもと変わらない。
それだって、私を気遣ってのことなんだろう。
既に痛み続けているはずなのに、河野の声でまた痛みが走る。
(……うん。行ったはいいけど、授業があることすっかり忘れてて。だから慌てて帰った)
かなり無理のある弁解。
(相変わらず、バカだな……)
(私がバカなのは百も承知)
ギリギリの中を、精一杯いつもの松本文子を演じる。
その後も、当たり障りのない会話をするのがやっとだった。
大事なことほど何一つ話せないし、聞くことも出来ない。



