「徹が同級生を殴ってしまったみたいね。徹から聞いたよ。でも、その理由は何も言わないの。殴った自分が悪いからって」
穏やかな表情のまま河野のお母さんは私を見つめる。
「だから私たちもそれ以上何も聞いてないのよ。あの子が人を殴るなんてきっとよっぽどのことだと思うの。確かに暴力は絶対にいけないけど、それはあの子もちゃんと分かってる。だから言い訳もせずに自分のしたことを認めてる。私たち親はあの子を信じてるからね」
お母さんの言葉に、河野と河野の家族の信頼関係の深さを実感する。
みんなちゃんと河野を信じてるんだ。
そして、きっと河野は職員室でも同じように殴った理由なんて一言も言わなかったに違いない。
「もしかして、あなたが理由で徹は殴ったのかな?」
河野のお母さんがニコッと微笑んで私を見て来た。
私はただ俯くことしか出来なくて、何も言葉を返せない。
「大事な女の子のためになんて、あの子そんなにカッコイイ男になってたの? なんだかちょっと嬉しいな」
お母さんの微笑みが私には辛かった。
違うんです。そんなことしてもらえるような人間じゃないんです――。
私が本当はどういう人間かなんて打ち明けられもせず、ただ黙ったままの自分が卑怯で薄汚れて見えて。
温かくて真っ白で心の綺麗な河野の家族の前に立っているのが辛くなった。
「本当に、ごめんなさい」
私は深く頭を下げそこから立ち去ろうとした。
「徹に会いに来たんじゃないの?」
「いいんです。じゃあ、失礼します」
私は、河野のお母さんからも逃げるように全力で走った。



