素直の向こうがわ



「そんなの、フミのせいじゃない。フミばっかり責めるのおかしいよ」


真里菜が脇坂さんに何かを言っている。
でも、私の頭の中は河野のことでいっぱいで。

私はたまらなくなって走り出していた。


そんなことになっていたのに、どうして昨日河野は私にあんなに優しくしたの?


そんな風に優しくされるような女じゃない。

そもそもどうして河野みたいな人が私なんかを好きになったりしたのだろう。
私はあいつに好きになってもらえるような人間じゃない。

私が馬鹿をやっている間、河野はずっと地道に頑張って来た。
なのに、私なんかのせいで、それも全部台無しにした。


それなのに、どうしてあんなに優しげに私に触れたりしたのよ――。


私なんかに出会わなければ、私があいつを好きになったりしなければこんなことにはならなかった。


職員室の扉を乱暴に開け、一目散で担任のところに向かう。
そして担任の腕を必死で掴んでいた。


「先生、なんで河野が停学なの? 先生だって知ってるでしょ? 河野がこれまでどれだけ努力して来たか」

「な、なんだよ。松本、なんでおまえ? 関係ないだろ?」


担任の驚く表情を無視して私は叫んだ。


「悪いのは私なの。だから、河野の代わりに私を停学にしてよ! 私なんてずっと留年すれすれだったし、何にもしないで遊んでばっかりだった。だから、お願い。先生! 河野の停学を取り消して」

「フミ、やめなってば」


最後は薫と真里菜に取り押さえられて、自分が何を叫んでいたのか分からない。
周囲の先生の目も、集まって来た生徒たちの姿も、何にも私の目には入らなかった。