素直の向こうがわ




「うん、まあ、数日は自宅謹慎かな。でもその程度だから。あんまり心配するなよ。勉強に専念できるし、ちょうどいいよ」

「自宅謹慎って……」


それって……。


「それより、俺がいないからって勉強サボんなよ。謹慎があけたらチェックしてやるからな」


そう言って優しく私の頭に触れる。


どうして、河野はそんなに優しくするの?
こんな時に、そんなに優しくしないで。


これまでのどんな時より河野は優しかった。
これまで見たこともないほどに私に優しく接していた。

それが、私にはたまらなく辛かった。


航にあんなことを言われて河野はどう思ったの?
悔しかったんでしょう?
これまでさんざん遊んで来た私に嫌悪を感じたんじゃないの?


そのどの感情も滲み出さず、それどころかこんなにも優しくされて、私は一体どうすればいい?


暗い教室の中泣き続ける私を、河野はずっと涙を拭ってくれた。

帰り際に河野が少し不安を目に灯しながら言った。


「本当に大丈夫だから。おまえは何も心配するな」

「……分かった」


全然安心なんて出来ないけど、河野が望むようにしてあげたかった。
だから笑顔でそう答えた。


「それと、その髪の似合ってる。じゃあな」


駅での別れ際、河野が手を上げる。
笑顔なんて得意じゃないくせに笑っちゃって。
だから私も笑顔で手を振る。

そして、髪留めにそっと触れた。