「生徒会室近くの廊下だったらしい。山下が河野に喧嘩うったんだって」

「喧嘩って。河野はそんなのをまともに相手にするような奴じゃないよ」


私はすぐさま反論した。
そんな馬鹿なことをする人じゃない。
真里菜が表情を歪め、視線を私から逸らした。


「……山下が、フミのことで酷いこと言ったらしいの」

「酷いことって?」

「……」


また黙ってしまう真里菜に私は本当に掴みかかる。


「ねえ。酷いことって何。いいから言って!」


真里菜は観念したように、その重い口を開いた。


「最初は河野も相手にしてなかったって。でも……。もうフミとはとっくにヤッたんだろって。あいつは淫乱だからすぐに誘って来ただろ、とかいろいろ……」


そこまで言って真里菜は怒りと悲しみに満ちた表情を俯かせた。


「何それ……。信じられない。サイテーだよあいつ」


薫が声を荒げる。


「とどめに、フミの身体は最高だから、俺にもたまには貸してくれって……。それで、河野が山下を殴りまくって、周りにいた生徒が騒ぎたててそこに先生が来ちゃって、職員室に連れていかれたって」


真里菜の言葉に、私は思わずぎゅっと目を閉じる。


「ヒドイ……。そんなの、あんな奴殴られて当然――」


興奮する薫の言葉を遮った。


「悪いのは私だよ。私が……」


私のせいで。
私みたな女と付き合ったから。
河野は……。


「ちょっと、変なこと考えるんじゃないわよ? とにかく今は河野のこと待ってよう」


呆然として今にも崩れ落ちそうな私を支えるように薫が席に座らせた。


次の授業が始まっても河野は教室に戻って来なかった。