「どこ行くの!」


どことも分からず出て行こうとした私の腕を薫が強く掴む。


「でも、河野が」

「どこに行くっていうの? 河野は今職員室にいるんでしょ? 今あんたが行ってもどうにもならない」


薫に強い口調で止められる。


「そうだよ。私、話聞いて慌てて戻ってきちゃったの。その現場を見てた子にまた話ちゃんと聞いて来るから。フミはここにいな。今のフミの顔、真っ青だよ」


真里菜はそう言うとすぐに教室を出て行った。
身体から熱が奪われて行くような感覚に襲われる。


「大丈夫。だって、河野だよ? 全生徒の中で一番教師から信頼されてる奴だよ。河野なら大丈夫だから」


薫が必死に私をなだめる。
でも、どうしたってこの胸の激しい鼓動は収まらない。


どうして殴ったりなんか――。


私は何も分かっていなかった。
河野の想いも、そして、これまで自分がして来たことは、どんなに悔やんだところでどんなに変えようとしたところで決して消せるものじゃなかったってことも。

さっきまで見ていた河野の笑顔だけが、何故かずっと頭に浮かんでいた。