「それにしても、山下が来た時の河野、めっちゃ男だったよね。うかつにも私まで惚れそうになったわ」
私も真里菜や薫と次の日本史の授業のため教室を移動した。
3人で並んで席に着くとすぐに、真里菜がうっとりとした顔で話し出す。
「『もうこいつのところに来んなよ。いつまでも昔の女につきまとうな。みっともねーよ』って言って、フミを連れ去ってさー」
全然似ていない河野の真似に、言葉を挟む気分にもなれない。
河野の心境が分からなくて私はそんな風に喜べない。
「あれ? でも、河野って山下がフミの元カレって知ってるんだっけ?」
真里菜がうっとり顔から一転不思議そうな顔をした。
「多分……。前に、航が私の席で言ってたこと聞こえてただろうし」
私がそうぼそぼそと言うと、真里菜が「……ああ。あの時ね」と思い出したように頷いた。
「どうしたの? 河野と何かあった?」
俯き加減の私に、薫が心配そうに覗き込んで来た。
「河野は、その、どう思ってるのかなって。ちょっと不安になってさ」
「河野は何も言わないの?」
「うん。航のこと何も聞いて来ないし、だから、何考えてるのか全然分からない」
元カレの話なんてどう言ったらいいのかも分からないし、そんな話する必要があるのかも分からない。きっと嫌な気分になるだけだ。



