でも、すぐに河野の手は私から離れた。
言葉はなくて、一瞬見せた切なげな河野の目。
ただそれだけなのに、胸が苦しくて仕方がない。
胸がぎゅっと締め付けられてたまらない。苦しくて涙が込み上げそうになる。
遠くで聞こえていた生徒たちのざわめきが消え、二人の間に流れる沈黙がさらに主張してくる。
「……やばいな。休み時間終わったみたいだ」
少し困ったような河野の顔。
今私に触れてくれた余韻を消し去るようにそう言った。
「さすがに二人揃って遅刻してくわけにもいかねーから、おまえ先に戻れ」
「でも! 河野は? 河野はどうするの?」
河野の言葉に私は声を上げた。
「俺は後から行くよ。おまえより俺の方が日頃の行いが良い分、多少注意されるくらいで済むだろ」
そう言って笑って見せたその表情は、どこか微妙に硬い。
私は河野と一緒にいたい。
今、河野を一人にしたくない。
その思いで一杯になる。
そして、何より私が河野から離れたくない。
このまま一緒にいさせて――。
「私――」
「ほら、早く」
そう言おうとした私の声をかき消すように河野が言った。
その口調は決して強いものではなかったけど、そこにはどこか有無を言わさない雰囲気があった。



