素直の向こうがわ



少し難しそうな顔をしながら何かの問題を解いていた。
医学部は、他のどの学部よりも別格に難しい。いくら準備しても安心できないって河野が言ってた。

医者になりたくて、中学の頃からずっと努力を続けて来たんだと河野から聞いた。

河野はいつも、こうして時間を見つけてはそれがどんな隙間時間でも勉強してる。
家では家事もしなければならない。

それでも私といてくれている河野に、本当に感謝していた。


この日は必修の授業が連続してある日だった。

だから、いつもより長く河野の隣に座っていられるという、私にとって一週間の中でも嬉しい日だ。

隣の席だからと言って特別たくさん話すわけではないけど、その存在を近くに感じられるだけで私には十分嬉しかった。

その必修の授業の間の休み時間、自分の席で数学の参考書と格闘していた。


「よう、文子」


どうしても問題を解く糸口が見つけられなくて、ちょっと河野に聞いちゃおうかななんて思ったその時、突然あの男の声が降って来た。

嬉しくて幸せな気分に浸っている私に突然冷水を浴びせるような、ぞくっとさせるその声――。

隣の席には河野がいる。