素直の向こうがわ




私なんて単純なもので、河野と話してからというもの、父親がいないその時間がどんなものかを考えるようになった。

いつもは、自分に向けられる冷たく感じる視線にしか意識が向かなかった。でも、ふとした瞬間に垣間見る父親の表情には、色濃く疲労の色が滲んでいた。気付けば、その髪も以前よりずっと白くなっている。

すぐにわだかまりがなくなるわけではない。

でも、私の見えないところであの人が向かい合っているものに思いを馳せるくらいのことは出来るようになった。


それだけ、河野は今では私にとって大きな存在で。

あの夜の公園で、これまでの自分のことを話せて、河野の存在がもっと近くなった。



そして、私に新しい目的も見つけ出させてくれた。

夜の公園から駅まで歩いていた時、河野が言った。


「おまえは何かやりたいこととかないの?」

「そんなこと特に考えたことないな」


それしか言えない自分に恥ずかしくなる。

ただどこか入れる大学に行って、遊ぶ時間を引き延ばせればいいくらいにしか考えていなかったから。


「今度は自分のやりたいことのために勉強しろよ。中学の時みたいに誰かのためじゃなくて」


私のやりたいこと……。


「俺、おまえの弁当初めて食った時、本当に驚いた。それを一週間食べ続けた後、それが感動に変わったよ。ちゃんとバランスとか考えられてて、いろどりもよくて。それでいて毎日違うメニューでさ。そういうのって考えるの大変だろ? だから、おまえはそういうの向いてんのかなってさ。栄養士とか?」

「……え?」


そんなこと、考えたこともなかった。
でも確かに、毎日どんなふうにメニューを組もうかと考えるのは楽しい。


「いや、まあ、今のは一つの例だ。とにかく、やりたいことのためにした努力なら自分に返って来るから。親とか関係なくなる」


この時、一本の道が私の心の中に真っ直ぐに伸びて行った。
それは、もやっとしていた私の目の前の視界が急に開けて、感じたことのないワクワクが私を包み込んだ。