素直の向こうがわ



「でもさ。おまえの父親も、今のこの瞬間もきっと誰かの命を救ってると思うんだ」


河野のお母さんが命を救ってもらえたように、あの人も誰かの大切な人を懸命に助けようとしているのだろうか。

家族を犠牲にしてしまうほど不器用に、ただその命だけを救いたくて見つめているのだろうか――?


「おまえがそうやって寂しさを耐えて来た分だけ、誰かを助けられてる。誰かが心から喜んでる。そう思えば、おまえの辛かった時間も意味のあるものに思えないか?」


河野が真剣にそう言ってくれているのが分かる。
だって、眼鏡越しでも分かるくらい、その思いを私に訴えかけてくるから。


「そう思えよ。――その代わり、これからは俺がおまえの寂しさを引き受けてやるから」


河野の眼差しに、河野の声に、私は感情が溢れ出した。

これまでの、馬鹿なことをしてもがいて孤独だった自分が蘇り、心にいろんな感情が湧き上がる。

何故だかどうしても涙が込み上げて来て、慌ててその涙を拭った。