「なんで医学部なんだって聞いただろ? 俺、母さんの今の主治医に本当に感謝してるんだ」
河野はこちらを見た後、その目を前に向けた。
「母さん、渉が生まれて数年経った頃から体調悪くなりだして。病院にも行っていたのに、風邪だとか精神的なものだとかって言われ続けたまま時間だけが過ぎてた。でも、本当はかなり重い病気だったんだ。それに気づいた時にはもう手遅れだって言われた。許せなかったよ」
河野は話の内容とは反対に静かな口調で話し続けている。
それが余計にその時の怒りを表しているような気がした。
「でも、諦めきれなくて父さんがその病気の名医って言われてる医者を探して来たんだ。それが今の主治医。『諦めないで、やれることはやろう』って言われた時、その先生が神様に見えた。診てもらう先生によってその人の運命が変わるんだって知って、その時から自分も誰かを助けることの出来る医者になりたいって漠然と思うようになった」
私は自然と河野の話に聞き入っていた。語られるその思いは、河野らしいと思った。
「その先生は、本当に親身になって診てくれるんだ。どんな些細な変化でも何かあればすぐ駆けつけてくれる。俺たち家族はそんな先生にいつも感謝してるんだ。いつでも患者の容態を最優先してくれる先生に安心も出来る。でも……」
そこで河野が私を見た。
「そんな先生の陰には、おまえやおまえの母親みたいに寂しい思いをしてる家族がきっといるんだろうな。そんなこと、これまで考えたこともなかったよ」
河野の言葉に思わず頭を振る。
私の話が河野を責めることになってしまっただろうか。
河野は何も悪くない。



