「あの頃は勉強しかしてなくて、友達とかもあんまりいなかったから」
本当に今じゃ考えられないほどのガリ勉女子だった。
「両親ともうちの高校が母校なんだよね。だから、勉強頑張って同じ高校合格したら、二人が私のこと見てくれるんじゃないかって、三人で笑えるんじゃないかって思ってさ。私、要領いいタイプじゃないから死に物狂いで勉強したよ」
中学三年間、成績を上げること、そして超難関であるこの高校に合格することしか考えてなかった。
「合格した瞬間、『これで大丈夫かも』って嬉しくて、早く親に報告したかった。親の笑顔が見たかった。でも、急いで帰った先にあったのは、家族で笑い合う姿なんかじゃなかった……」
あの3月の合格発表の日のこと。
今でも鮮明に思い出すことが出来る。珍しく激しい雨が降っていた。
「その日、お母さんが出て行った。『おめでとう』じゃなくて『ごめんね』って言って。私が頑張ったところで、家族を繋ぎ止めるどころか、バラバラに壊れた。母親は出て行ったまま会ったこともないし、父親は余計に仕事ばかりになった。あの人は、患者のことしか考えてない」
あの日から私は、父親に当てつけることしか考えられなくなった。
喜び一杯で駆け込んだリビングで、飛び込んで来たのは父親の怒号だった。
『出て行けっ!』
その時の父親は、見たこともないほどに怒りに満ちた表情をしていた。
『……文子、ごめんね』
私に気付くなり、母親はそう言って部屋を出て行って。
『お母さん、待って――』
日に日に心が遠くなっていくような、そこにいても心はここにないような母親に寂しさを感じていても、父親よりは私のそばにいた。
でも、「待って」と言っても、母親は一度も振り返らずに玄関から出て行った。その時の背中が、どうしようもなく遠く感じて怖かった。
『お母さんを追い出すなんてひどい! いつも家にいないアンタが悪いんじゃん。アンタなか大っ嫌い!』
気付くと父親にそう叫んでいた。
「それで、私が頑張れば家族三人でいられるって、私を見てくれるって思ってずっと寂しいのを我慢して頑張って来た私の中の何かが切れちゃったんだよね。
何もかもがバカバカしくなって。
それで、河野が知ってるチャラチャラ馬鹿やってる今の私が出来上がって行ったってわけ。
今思うとそんな理由でバカみたいだけどね」
母親が出て行ってから、その居場所すら教えてもらえていない。
会ったこともなければ連絡を取ったこともない。
会いに来てくれたことも、電話をくれたことも――。
もう親なんてどうでもいいと思った。
何もかも、全てが崩れて行くようにどうでも良くなった。
でも結局、中学までの自分をすべて変えてしまうことで、そんな自分でも親に見てもらいたかったのかもしれない。
父親にも母親にもちゃんと見てもらえなくて寂しかった。ずっと孤独だった。
どんな理由でも、気に留めてもらいたかっただけだ。
本当に子供だ。情けなくなるほどに。
私の隣で、黙って話を聞いていた河野が静かに口を開いた。



