素直の向こうがわ




河野の家を出て、夜の住宅街を二人並んで歩いた。

一人で食べる夕飯とは比べものにならないほど楽しくて、そんな時間をくれた河野に心の底から感謝する。

あの無機質なダイニングでの孤独な夕食を思い出すと、よりその思いは強まる。
母親がいた頃だって、家族三人で食卓を囲んだことなんてほとんどなかった。

夜空に浮かぶ大きな月が私たち二人を明るく照らしてくれていた。
そんな包み込むような夜の空気の中で、私はもっと河野と話をしていたくなった。


「今日、ありがとう。本当に楽しかった。崇君にも会えたし」

「渉も楽しそうだった。こっちこそありがとな」


河野にいつもより自然に言葉を紡いでいた。

そんな時間は本当に早く過ぎるもので、もう駅ローターリーが視界に入る。


もう少し。もう少し一緒にいたい――。


心の中の想いが私の表情に出てしまっていたのかもしれない。
近付くにつれ私の歩く速度が遅くなってしまっていることに気付いているのかもしれない。

多分、河野はそれを察知してくれた。そして、その思いを受け止めてくれた。


「もうちょっと話してく?」


その言葉に私は思わず河野を見上げる。
そして河野の優しげな目に、嬉しさと、どこか切なさを感じていた。
でもやっぱり嬉しさの方が断然大きくて、すぐに頷いた。