素直の向こうがわ



「うん。ありがとう」


河野もテーブル越しに私の向かいに腰を下ろす。

早速河野は、鞄から何やらまた小難しそうな問題集を取り出して開いた。

今度は数学だろうか。問題の意味を理解するだけでも苦労しそうな問題を涼しい顔で解いている。

ずっと真面目に勉強して来たんだろうな。
医学部志望ならきっとそうだ。小手先の学力でなんとかなる学部じゃない。

静かな部屋の中でペンの滑る音と、ページを捲る音だけが響く。

そして問題集に落とされている河野の真剣な目。
シャーペンを握る河野の手。

向かいに座る河野の姿をじっと見つめてしまう。


「どうした? 分からないとこある?」


ふいに河野の顔が上げられびくっとした。
完全に油断していた。


「うん。ごめん、河野集中してたのに」

「いいよ。どこ?」


河野の邪魔をしてしまったことに慌てて謝ったけれど、迷惑そうなそぶりもなくそう聞かれた。


「えっと、ここの文法問題」


開きっぱなしになっていた英語の文法問題集の問題を適当に指す。

それに合わせて、河野が少しだけ頭をこちらに寄せて来た。
その分だけ近づいた河野の身体に、勝手に心拍数が上がる。