薫や真里菜と別れて家に着くと、珍しく灯りが漏れていた。

そのことに、途端に気が重くなる。


目の前の玄関のドアが鉛のように重い。
引き返す訳にもいかず、いかついドアノブに手をかける。

無駄に広い玄関。そこから続く生活感のない冷たい印象を与える大理石の廊下。
その向こうにあるリビングの扉が開き、こちらに向かってくる……父親の姿が目に入った。


「こんな時間まで、また遊んでたのか? おまえももう受験生なんじゃないのか? いつまでそうやってるつもりだ?」


2週間ぶりに会う娘への第一声がこれだ。
2週間も放っておいて親みたいなこと言うのやめてほしい。

私は父親の方を一瞥しただけで何も答えず階段を上る。


「そんな格好で歩いて……。もう、おまえはどうしようもないな」


その声の冷たさに、思わず振り向いてしまった。父親の視線とぶつかる。
眼鏡の奥に氷のように冷めきった目があった。
まるで、汚いものでも見るかのような蔑んだ目。

すぐにそこから視線を外し階段を駆け上がった。

あの目を見ると、自分がどうしようもない人間に思えてくる。

部屋に入り、明かりも点けずにベッドに飛び込む。


――嫌い。


父親から向けられた視線が蘇って来て目を硬く瞑る。
それと同時に浮かんだあの目。


眼鏡男が私に向けたもの――。


それが、父親のものと似ていたのだと気付く。


――嫌い。あんたなんか大嫌い。