素直の向こうがわ




久しぶりの河野の家。
かなり緊張しながらお邪魔する。


「あれ、渉いねーのかな」


家の中の静けさに、河野が独り言のように言葉を零す。
ひょこひょこと河野の背中に付いて行く。
リビングにも人の気配はなかった。

河野と一緒にリビングのローテーブルにある小さな紙を見つけた。


『ともだちのいえにあそびに行ってくる。ちゃんと5時にはかえってくる。 わたる』


河野の手にしたその小さな紙切れを私も覗き込む。小学生男子らしい、おおざっぱな字が可愛かった。


その置手紙を私も読みたくてつい覗き込んでしまっていたから、河野との距離が近いことに気付いた。
それで急に河野のことを意識しだしたうえに、ある一つの事実に気付いてしまう。


もしかして5時まで家に二人きりですか?


思わず時計を確認してしまう自分が嫌になる。


「じゃあ、俺の部屋に行く?」

「へっ! あ、はい。行きますか」


邪なことを考えていたタイミングでそんなことを言われて、一人勝手に素っ頓狂な声を上げてしまった。

そのうえ、意味不明な敬語。

バカバカバカと心の中でいくら罵ってみたところで、この心の大騒ぎぶりは収まりそうにない。