「無理なんてしてないよ。私がしたくてしたの。河野が嫌じゃないなら安心したよ」
私は心からホッとして河野を見つめた。
私の心配のし過ぎだったのだ。
目の前にいる河野の顔は、とても優しく労わるようなものだった。
でも、それと同時にどうしてか少し苦しそうにも見える。
「安心ついでに、何か食う? りんご買って来た。りんご剥くくらいなら出来るから」
でも、すぐにそんな表情も消えていた。
「ほんと?」
そんな河野に安心した私は、わざとらしく疑うように河野を見上げた。
「おまえの作った弁当は、昨日俺が食べちまったしな」
悪戯っぽく河野がそんなことを言い出した。
私が持っていこうとしたお弁当、河野が食べてくれたんだ。
「そっか。無駄にならなくてよかった。気付いてくれてありがとう」
「それにしても、あの体調でよくあんな弁当が作れたな」
河野が呆れたように優しく笑った。
熱が出てしまった自分の身体に感謝する。
河野の気持ちを少し垣間見られたような気がして、付き合い始めても全然実感が持てなくてどこか不安だった私にくれたご褒美のような気がした。
少しは河野に近付けたかな――。
そんなことを思う。



