素直の向こうがわ



「あのさ……。河野、このあいだの図書室で、なんか怒ってた?」


ぼそぼそと零れる言葉に、河野が一瞬顔をしかめ、そしてその表情を緩めて息を吐いた。


「なんで? 怒ってなんかねーよ」

「そっか。ならいい。じゃあ、私の外見変わったの気付いてる?」


これもこれで勇気のいる質問だった。
結局河野はそれについて何も言ってくれていない。


「それだけ変わってれば、当たり前だろ」

「そ……そうだよね」


それ以上言葉が続かない。
気付いていたなら、どう思ったのか。聞きたいのはそれだ。


「……驚いたよ」


バツの悪そうな顔をした河野の顔があった。


「突然こんなに変えちゃって、もしかして、河野、引いた?」


そんなこと聞いたってどうしようもないのに聞きたくなる。
いつもどこか緊張して、近付けない河野の心に近付きたくなった。


「引く? 引くわけねーだろ。ただ驚き過ぎただけ」


そう言って私を見る河野の目が一瞬揺れたような気がした。


「じゃあ、嫌じゃないよね? 私バカだからさ。もし河野に嫌がられてたらって思って不安だった」


自分で言っていて目が潤みそうになる。
河野に嫌がられるなんて、言葉にするだけで悲しくて仕方ない。

そんな私に、河野がなぜか表情を歪めた。何かを堪えているような目だ。
ベッドに置かれていた河野の手が少し動いたと思ったら、それはまた元の場所に戻されていた。


「……嫌じゃない。ただ、おまえが無理してるんじゃないかって思っただけだ」


そう言う河野の目が甘く熱を帯びたように見え、身体がまた熱くなる。
心から紡ぎ出されたような河野の声に、自然と心が満たされて行く。

こんなふうに河野と話したかった。
私の胸のうちを聞いてもらいたかった。