「ねえ、でも、家は大丈夫? 外泊なんてして家族の人心配してるでしょ?」
それが気になる。渉君も心細かったのではないか。
「ちゃんと家には連絡したし、父さんもいたから大丈夫だ」
ちょうど計測修了の電子音がして体温計を取り出す。もうほとんど平熱に戻っていた。
「おまえの親が帰って来るまでって思ってたんだけど、帰って来てないみたいだな」
河野が聞きづらそうに私を見つめて来る。
「いつものこと。あの人、ほとんど家にいないから」
「そうか」
つい吐き捨てるように言ってしまって慌てて笑顔を作る。
「心配かけてごめん」
布団を顎まで上げて、そう言った。
「ほんとだよ」
河野の目がいつもより少し優しくて、そしてこの部屋に二人だけだということも相まって河野が近く感じられた。
だから、なんとなく甘えたくなって。
熱の余韻が私の感覚を麻痺させ、いつもなら言えないようなことを言ってしまいたくなった。



