素直の向こうがわ



いくつか問題を解いたところで、なんとなく視線を感じた。

その視線の先を確認したい欲求にかられるけれど、そうしてしまったらその視線とぶつかりそうで出来ない。

仕方なく、俯いたまま目だけを横に動かすと、河野のシャーペンの動きが止まっているのが分かった。


私、見られてる……?


次第に恥ずかしさより確認したい気持ちが上回ってしまう。この胸は激しく鼓動しているというのに、顔を河野の方に上げてしまった。

その眼鏡の奥の目と視線が合わさる。

どう反応していいか分からない。

目が合って、その目に見つめられて激しく胸が高鳴って。

そんな目で見られたのは初めてだ。
胸の奥が甘く疼く。


「こうの……?」


苦しくて思わず声が零れた瞬間、思いっきり顔を逸らされた。


私、何か河野にしちゃった……?


先ほどの甘い疼きから一転、痛いほどの疼きに変わる。


「……おまえ、何かあったの?」


私から顔を逸らして問題集に目を落とし河野が問いかけて来た。


「何かって?」

「……いや、いい」


何を聞きたいんだろう。
分からなくて、でも聞き返せなくてもどかしさに苦しくなる。


「じゃ、あの、ここ、教えて」


この沈黙のせいで私の激しく動く鼓動が聞こえてしまいそうで、そう咄嗟に言っていた。