素直の向こうがわ



なんだか、ここのとこ毎朝教室に入るのに緊張してるな……。


自分の教室の扉の前に来て立ち止まり、ついうつむき加減になる。
誰も私だと気付いていないのか、特に気にも留めていない。


意を決して、自分の席へと向かう。

河野はやっぱりもう来てる。
相変わらず何か読んでいた。

授業が始まる前のクラスのざわめきの中、忍者のようにすり足で自分の席に着いた。


「……え? あ、松本さん?! いつもと全然違ってて分からなかった」


最初に気付いたのは私の前の席に座るクラスメイトだった。
彼女の大きな声のせいで、隣の河野がこちらを見ているのに気付く。
でもやっぱり気恥ずかしくて視線を合わせられない。


「やだ。フミ、どうしたの?!」

「誰よ、あんた」


そして、真里菜と薫にまで彼女の声が届いたようで二人はすっ飛んできた。


「そんな大騒ぎしないでよ。恥ずかしいな。ちょっとイメチェンしただけじゃん」


私の机を取り囲み大声を出す二人にいたたまれなくなってその声を遮る。


「ちょっとどころじゃないって。別人っていうんだよ、それは」


薫が、そう言った後にちらりと隣に視線をやり、「ちょっとおいで」と私の腕を引っ張った。


「な、なに」


廊下へと引っ張り出されて、私は怒ったように二人を見た。


「それって、河野のため?」


う……。やっぱりそう思うよな。


「誰かに、何か言われた?」

「え?」


この二人にも、周囲の声が耳に入っていたのだろうか。