素直の向こうがわ




鏡の前で、まじまじと自分の姿を見る。
本当に、別人みたいだ。


髪の色を暗めの栗色に変えてもらった。

先の方がかなり痛んでいた長い髪を、肩までのセミロングにした。

制服のシャツのボタンは一つだけあけて、学校指定のリボンを二年半ぶりに付けた。

メイクは軽くパウダーをはたいただけ。

スカートは膝上ちょうどくらいにした。


昨日までの自分とは違う人間がそこには映ってる。

これなら、他の生徒に同化出来るし特に目立つこともないだろう。
河野の隣にいても、少なくとも私のことを知らない人からは好奇な目で見られることもないと思う。


でも、以前の私を知っている人が私と河野が付き合ってることを知ったら、絶対河野に合わせてイメチェンしたって思うよね……。


それは少しばかり恥ずかしい気もするけど、それでもそんなことはどうでも良かった。

自分の恥なんて今更気にもならない。
河野が自分のせいで悪く言われなければそれでいい。


学校に出かけようと玄関で靴を履いていると、ドアが開いた。


「これから学校か……って、おまえ、その格好どうした」


驚いて、ドアを開けたまま固まっている父親を一瞥してその横をすり抜けようとした。
派手でも地味でも同じセリフ。


「少しは、考えを改めるようになったか」


別にアンタのためじゃないし。


じろじろ見て来る父親を無視してそのまま外に出た。

おそらく夜勤あけで仮眠を取りに帰って来たのだ。

あの人にとって一番大事なのは自分の患者たちだ。