素直の向こうがわ



「飲み物買って来る。ちょっと待ってろ」


河野が箸を置いて、そう言い出した。


「気が利かねーな、俺も」


ふっと笑みを見せて河野は立ち上がり、購買の方へと消えて行った。

そして静かになって、さっきまで耳に届かなかった声が届くようになった。


「あれ、生徒会長だよね。なんであんな派手な子と一緒にいるんだろう。かなりイメージダウンなんだけど。びっくり通り越してがっかりだわ」


木の幹を挟んでちょうど反対側の背後から聞こえて来る。


「本当に。意外に趣味悪いよね。もしかしたら、あんな顔して本当は会長も遊び人だったりして」

「表は真面目で、裏ではヤリまくりとか?」

「やだー」


そう言って嫌な笑いを上げている。
でも、きっとこの声は彼女たちだけのものではない。私たちを見た人は、多かれ少なかれ思うことだろう。

自分のことを言われることには何も感じない。自分でしていることだし、分かっている。

でも、河野のことをそんな風に思われたくない。私のせいで誤解させるわけには行かない。

これまで真面目に生きて来た河野の評判を自分のせいで貶めるわけにはいかない。