素直の向こうがわ



「河野、やっぱりフミのこと好きだったんじゃん。だから、前からそう言ってたのに」


あれだけ素っ頓狂な声を上げたくせに、今度は真里菜は自慢げに腕を組みだした。


「それにしても、あいつ、男の中の男だね。フミのこと好きなんて」

「それってどういう意味よ」

「いやいや、ああいう真面目君は普通、フミみたいなの敬遠するかなって思うのに。だいたい、最初なんて本当に最悪だったじゃん。なんか、そこが胸キュンじゃない?」


真里菜のはしゃぎようにこちらが逆に冷静になって来る。

本当に、私だって理解できないでいる。

どうして、河野みたいな人が私のことなんて好きになったんだろう。
考えても考えても全然分からない。


『なんであなたみたいな人』


脇坂さんの言葉がこだまする。


「でも、良かったね。フミ」


薫が落ち着いた声でそう言ってくれるから、私も少し安心出来た。薫って私の精神安定剤みたいだ。


「これって、クラスの人間にばれてもいい話?」

「え?」


真里菜の問いかけに、ふと考え込んだ。

そんなことまで考える余裕なんてなかった。

そもそも、お互い好きだってことまでは分かったけれど、「付き合おう」とか言われたわけじゃない。勝手に『彼女』だなんて名乗っていいのだろうか。


「とりあえず、河野の名誉にもかかわるし、黙っていてほしい」


私はそう答えておいた。


「なに、それ」


薫が呆れたように私の顔を見る。


「河野の顔を見る時、ニヤニヤしちゃいそう」


真里菜のはしゃぐ声に、私はまた一人俯くしかない。