素直の向こうがわ





「ちょっと、用事あるから先に食べてて。あ、それと今日は中庭で」


昼休みになると、私は真里菜と薫にそう言い残して脇坂さんのクラスへと向かった。

2年生のフロアに来たのなんて初めてだ。3年とは違う、まだ少し気楽な雰囲気が流れていた。


「あの、脇坂さんいる?」


脇坂さんのクラスの入り口で最初に目に入った子をとっ掴まえて声を掛けた。
私を見て少しぎょっとした顔をされたが、すぐに彼女を呼びに行ってくれた。

少しして私の元に来た脇坂さんは、これまで見て来たどの脇坂さんでもなかった。

私を見る目は、その可愛らしい雰囲気には似つかぬ鋭いものだ。


「なんですか?」


その声も別人じゃないかというほどに低い。敵意に満ち溢れた声に一瞬怯みそうになったけど、ここで引き下がるわけには行かない。


「ちょっと話したいんだ。少しいいかな」


そう言うと、私を睨み無言のまま歩き出した。
私も慌ててその後を追う。


「で、話ってなんですか?」


階段下のひとけのないスペースまで来たところで、脇坂さんが振り返った。


「言っておきたいことがあって……」


いろんな迷いや怖さを振り切り、脇坂さんを見つめた。


「私も、河野のこと好きなんだ」


鋭い視線を歪めた脇阪さんの表情に胸が痛む。


「隠そうとかそういうつもりは全然なかったんだけど、結果的にそうなってしまった」


結局後出しじゃんけんみたいなことになってしまう。

どれだけその目を見ているのが辛くても、私は脇坂さんから視線を逸らさずにいた。