「ご、ごめん。河野は脇坂さんのことが好きなのに、こんなこと言うつもりなかった。河野は何も気にしなくていいから。だから、お願い、聞かなかったことにして」
取り返しのつかない事実から逃げるように再びうずくまった。
「おい」
「お願い――」
「なんで、俺が脇坂のこと好きってことになってんの?」
更に近くなったその声に思わず顔を上げてしまった。
立っていたはずの河野が私の目の前にしゃがんでいて、すぐ近くにその顔がある。
視線は私に真っ直ぐに向けられていた。それに私は激しく動揺する。
逸らしてしまいたいのに、河野の視線があまりに強くて逃げられない。
「……え? なんでって、それは、河野が、脇坂さんの前では見たことないほど笑ってて、それで……」
しどろもどろになる私の言葉に、河野がふっと表情を緩めた。
さっきとは違って、近くにある河野の顔ははっきりと見えた。
窓から差し込む月明かりが照らしてくれている。



