「脇坂には俺から話すから、おまえはもういいよ」
そう吐き捨てるように言うと、河野はそのまま教室を出て行った。
河野の姿が消えたと同時に、その場に足元から崩れ落ちた。
暗くなった教室で一人取り残された私は、本当にこの世に一人だけなんじゃないかと思えて来る。
最後に見せた河野の鋭いまでの冷たい表情。そして怒りに満ちた声、目。私に向けた背中。
今頃気付く馬鹿な私。
こんなに辛いくせに……。
胸の中は切り裂かれるみたいに痛くて、押し潰されているみたいに苦しい。
好きなだけでいいなんて、何も望まないなんて、そんなの嘘だった。
見ているだけでいいなんて、そんなの偽りだった。
本当は、脇坂さんのところになんて行ってほしくないと思ってるくせに。
少しでいいから私を見てほしいって思っているくせに。
見込みのない恋をする自分を守るための、ただ傷付きたくないだけの自分への言い訳だった。
その背中はもっともっと遠くに行ってしまった。
河野は脇坂さんの元へと行ったのだ。
これで二人は上手く行く。
そもそも、
最初から私は関係なかったじゃん――。
私はそう心の中で唱えた。
激しいほどの胸の痛みを和らげるために、意地になって何度も唱える。
恋は、決して楽しいばかりじゃない。
ましてや失恋は、感情すべてを痛みに変えてしまう。
こんな胸の痛み知らなかった。
これまで、こんなに誰かを想って胸が痛んだことなんて私にはなかったんだ。