素直の向こうがわ




振り返ると、そこには脇坂さんの姿があった。
少し赤く染まる頬は、彼女の女の子らしさを際立たせている。


「あの、どうしても松本さんにお願いしたいことがあって……」


思い詰めたように、そのくりっとして潤んでいる瞳で見上げられて、私は金縛りにあったように固まって動けない。


「明日の体育祭、河野先輩の最後の体育祭なんです。だから、河野先輩からハチマキをもらえる最後のチャンスで。どうしても断られたくなくて」


脇坂さんは緊張からなのか、その小さな顔を俯かせる。
この光景を傍から見れば、間違いなく私がか弱い女の子を苛めているように映るだろう。


「私の気持ち知ってるの松本さんだけで、それに何より、河野先輩にとって松本さんは唯一気を許している女の人の友人みたいなので。松本さんから言ってくだされば河野先輩も軽い気持ちでくれるんじゃないかって思って……」


『友人』という単語に反応してしまう自分が可笑しくて悲しい。


「松本さんから河野先輩に頼んでもらえませんか?」


脇坂さんは俯いていた顔を上げ私の顔をじっと見つめてそう言った。


「河野は私に気も許してないし友人なんて大それた関係でもない。そんなことより、それは自分でお願いした方がいいと思うよ」


そう、私が首を突っ込むことじゃない。私が関わるべきことじゃない。
あの河野の苦々しい表情を思い出す。

二人は両想いなのだ。

でもそれは、喉まで出かかってひっこめた。

そういうことを赤の他人の私が言うべきじゃない。
本人の口で言うべきだし、河野だって勝手にそんなことをされたら嫌に決まってる。