素直の向こうがわ




たどり着いた教室では、真里菜と薫がお弁当を食べながら待っていた。


「どこ行ってたの? 先食べてるよ」

「う、うん。ちょっと。私も早く食べようっと」


私はとりあえず笑顔を作る。
別に落ち込むことなんて何もないし。


河野が誰を好きでも関係ないーー。


最初からその相手が『私』になることはないんだから、同じことだ。

それでも痛み続ける胸を心の中でさすりながら、河野と同じメニューのお弁当を食べた。




「美味かった。それに、さっきはわざわざありがとな。選択授業の教室からそのまま生徒会室に行ってしまって……悪かった」


昼休みがもうすぐ終わるという頃、河野が教室に戻って来るなり私のところに来た。
いつものように綺麗に洗い終わったお弁当箱を私に手渡してくれる。


「ううん。こっちこそ、生徒会室にまでおしかけちゃってごめん」


思わず河野から顔を逸らす。なんとなく顔を見られない。

それは、どこからともなく湧き出してくるよそよそしさから。
そして、さっきあの子に見せていた表情との違いを実感したくないから……。


「え? ああ、別に……。それより、足、大丈夫か?」

「平気、平気。私、バカだからこんなのしょっちゅうだし」


そんな自分を誤魔化すようにおどけて見せた。


「それで――」

「そろそろお昼休み終わるよ。じゃあ」


そして、何かを言いかけた河野を遮り私は廊下に出た。


何も望まない。私が河野のことを好きなだけ。どうってことない。


私はまたそう心で唱える。