素直の向こうがわ



振り向いた先には男子生徒がいた。


「生徒会室に何か用?」


そう聞かれて私は我に返る。
完全なる部外者が入り口を塞いでいるのだという状況を理解して、すぐにドアから離れた。


「ご、ごめん。あの、これ、河野に渡して」


私は焦って、手にしていたお弁当をその男子に一方的に押し付けた。


「あれ……、松本さん?」


何故か私の名前を知っているようだけれど、そんなことに構っている余裕はなかった。


「とにかくよろしく」


それだけを言って逃げ出そうとしたら、馬鹿な私は思いっきり扉の角に足をぶつけた。そして、大袈裟なほどに響いた音で中にいる二人にも気付かれてしまった。


「松本?」


生徒会室の方から河野の声がした気がする。
でも、それを確認なんか出来なくて「じゃあ」とかろうじて言葉を発し、痛む足を必死に動かしながらそこから逃げ出した。

自分の視界に入った光景が何度も脳内で再生される。


河野はあの女の子のこと、きっと好きなんだ――。


心に過ったその考えは、脳内再生回数と共に真実味を増してくる。

心からの笑顔だった。私には見せてくれたことのない笑顔。


教室へと戻る廊下は果てしなく長く感じて、心細くて寂しかった。


痛いのは、足なのか心なのか。


痛くて泣きたくなる。