それは――。河野と、女の子。
「河野先輩、笑い過ぎですよー」
「仕方ないだろ、こらえきれないんだから……あー、腹、痛い」
お腹を押さえて河野が声を上げて笑ってる。
隣に立つ女の子も可愛らしく微笑んで河野を見上げている。
二人のシルエットは、まるで――。
石のように固まって一歩も動けない。
固定カメラのようにそこから視線を動かせない。
それなのに、心臓だけは激しく打ちつけてくる。それはもう痛いくらいに。
河野も、あんな風に笑うんだ――。
そんな笑顔見たことないよ。
教室ではほとんど表情を動かさない。
笑うと言っても目か口か、どちらかがほんの少し緩められるだけ。
それに、弟君に見せていた微笑みとも違う。
河野のあんなにも顔をくしゃっとさせて笑う姿なんて、知らない。
あんなに楽しそうな顔なんて知らない。
そんな河野を嬉しそうに見上げる女の子は、見るからに優しそうな柔らかそうな女の子だった。
肩までの綺麗な黒髪が笑うたびに揺れてる。
メイクなんてしていなくても、制服をきちんと着ていてもそれでいてとても垢抜けている。
お似合い――。
私はすぐにそう思った。
そうだよ、河野にはああいう子がお似合い。納得。
自分の心で唱えてみる。
それでも、この胸の痛みは治まってくれない。
早くここから立ち去らなきゃ、何かが目から零れ落ちて来そう――。
「何か、用ですか?」
背後から声がして、思わず振り向いた。



