「河野……」


名前を口にするだけで精一杯。その声だって、自分でも驚くほどか細い。
こんなの私のキャラではない。


「この前はありがとな。あの後もハンバーグ夕飯に使わせてもらった。助かった」


至近距離にいる河野の顔を見られない。
こともなげにそんなふうに話し掛けて来る河野を羨ましくさえ思う。

好きだと認識した途端に今まで以上に喋れなくなった。
そして挙動不審になってしまう。

これでは、絶対に何かを悟られてしまう。


「べ、別に、あれくらいどうってことないよ。気にしないで」


俯いたまま口をパクパクさせている私は、片想い中の中学生かってくらいにきっと顔も赤くしているのだろう。


「……じゃあ、またな」


少しの間の後、河野はそう言って私の横を通り過ぎて行った。

あんなに会いたいと心の中で懇願していたのに、いざ本人を目の前にしたらこのありさまだ。情けない。もうすぐ18歳の松本文子は、これでいいのだろうか。


「ちょっと。今の何? ハンバーグって? その赤い顔は一体何?」


河野が立ち去って大きく息を吐いたら、今度は目の前に二人の顔があった。


「え?」

「とにかく話はファミレスで聞くから!」


そう言って二人に強制連行された。