「ありがと」


河野のその声に思わず見上げてしまう。

その表情は少しだけ私に微笑みかけてくれているような気がして、たった今、私の史上最大級が塗り替えられた。

ドキドキと胸がうるさい。もう、うるさくて外へと漏れ出てしまいそう。

そして、胸が苦しい。


「……でも、私が本当に料理上手かどうかなんて分からないのに、私のあんな申し出受けちゃって。本当は不味かったらどうしたのよ」


そのドキドキが河野に届かないよう、私は敢えてそんなことを言ってしまった。

その言葉に意味なんてない。もう何でもいいから会話を続けていないと、この得体の知れない感情に呑み込まれそうで怖かった。


「アンタが俺にそんな嘘をつく必要があるとは思えないし。それに、アンタの友達が言ってたろ。アンタの弁当は自分で作ってるんだって」


あ……。お昼休みの私たちの会話聞いてたんだ。知っててくれたんだ……。


あんなに大きな声で喋っていれば、隣の席の河野に届いて当然。そんなこと分かってる。
でも、そんなことでも、今の私には嬉しすぎて既に泣きそうになっている。

もう、だめだ。


――好き。私は、河野が好きなんだ――。


「じゃあ、またな」


いつの間にか目の前にあった駅の改札で、帰って行く河野の背を見送った。


こんな私でも、あんたを好きになってもいい――?


私はきっと、もうとっくに河野のことが好きだったんだ。
ずっと分からなかっただけ。気付けなかっただけ。

いつもより近くに感じる明るい月に、すべてを見透かされているような気がする。


私の心は、もうどんな否定も出来ないほどに河野に恋してる。