「お父さんの分は、帰って来たらすぐに温められるようにラップしてキッチンに置いてあるよ」
お母さんの分は、さっきの渉君の話で準備はしなかった。
何か、まずかっただろうか。
弟君は塾の合宿だし……。
「……アンタ、門限とかあるの?」
「え?」
意味不明な質問に、頭の中が疑問形で溢れかえる。
門限なんて、そんなものあるわけない。家で私はほとんど一人だ。
「もし、大丈夫なら、食べてけば? そもそもアンタが作ったんだし」
河野のその発言にまじまじと見つめてしまう。
一緒に食べてもいいのかな。図々しくないかな……。
「多めには作らなかった?」
返事が出来ずにいる私をうかがうように河野が見ている。
「また食べられるようにいくつか作って冷凍庫に入れてあるけど……」
「じゃあ、姉ちゃん食べてけよ。一緒に食べようよ」
渉君に腕を引っ張られて、つい「うん」と頷いてしまった。
「じゃあ、俺が準備するよ」
そう言うと、すぐさま河野がキッチンに行き、私の分を物凄いスピードで準備してくれた。
それは、私がまったく手出し出来ないほどの手際の良さだ。
そんな河野の姿を自分が別の誰かになったかのような気持ちで見ていた。