「俺よりいい発音で読むなよなー。俺の立場がないだろ。じゃあ、和訳を」
そんなことを言って担任が笑いを取っている。
眼鏡男はその鉄壁の無表情を崩すことなく、一瞬のためらいもなく和訳を答えていた。
それはあまりに自然な和訳で、その手に持っている教科書が実は現代文なんじゃないかって勘違いしそうになる。
クラスメイトが皆必死でその訳を聞きながら、ノートに書きとっていた。
「訳も完璧だな。河野、ありがとう」
生徒会長サンは、成績もいいんですのねーー。ホント、嫌味なヤツ。
眼鏡男は表情一つ変えずに席に着くと、すぐにまた教科書に目を落としていた。
私もあのまま真面目に勉強していれば、隣の男のようになっていたのだろうか――。
そんなことをふと思った自分に腹が立って、すぐに打ち消した。



