「おはよー」

「あっ!零きた!おは!!」

「朝から元気だなっ、おはよ笑」



私は華彩 零。
ここ聖鈴高校に入学して1ヶ月、バスケが大好きでちょっと男勝りな女の子。



「零のが元気でしょ」



そしてこの朝っぱらから元気な女の子は、橘 杏里(たちばな あんり)。
私たちは小学校から一緒で、同じ部活。そして良きライバルでもある、いわゆる親友ってやつ。




「バスケがないとやる気がでないんだろ、零は」



後ろから頭を小突かれ、振り返るとそこに立っていたのは柏木 和麻。



「いったぁ、何すんだばかずま‼︎」

「んだと?ばかれい〜」

「おまっ‥‥‥。放課後、覚えとけよ?」

「受けて立つ。」



かずまは小さい頃から一緒で、幼馴染。
バスケもしていて、放課後の練習前には必ず一対一をするぐらい仲が良い。







「「きゃあ〜〜〜‼︎‼︎」」



私と和麻が張り合っているとき、不意に聞こえた女子達の黄色い声。





「「なに、なに。」」

「あー、多分、あれが来たんじゃない?」




若干引き気味に、耳を押さえて顔を歪める私と和麻に対して、涼しい顔して答える杏里。



「あ、あれっ‥‥‥」


「「きゃあ〜〜〜‼︎」」



再度聞こえてきた黄色い声に、あれって?、という私の疑問も儚くかき消されてしまう。


もう一度顔を歪め、耳を塞ぐ私と和麻。




「朝からすごいなぁ〜。零、あれ見てみな」




そう言った杏里の目線の先に私も目を向けると、たくさんの群がる女子が見えた。




「女子がいっぱいだね」

「いや、そっちじゃない。あっち」



そう言って顎をクイっと動かす杏里。


私は杏里からもう一度顎の先の廊下を見つめる。



そしてその先にいたのは、



「っ、‥‥‥」



思わず息を呑んでしまうほど‥‥‥たくさんの女子に囲まれた無表情な男の子。




「あの男の子、女の子が邪魔で通れないみたいだね。」

「は、はぃ!?」



私が頷きながら杏里を見れば、驚きで見開かした目を向けてくる杏里。

もともと目がおっきいけど、もっと目がおっきくなってて逆に怖い。




「杏里、怖いよ笑」



そう言って苦笑いをして見せれば、



「いやいや、私は零の天然のが怖い。本当に驚くほど怖い」



なんて目をパチクリさせる杏里。



「え、なにが?」

「この天然、憎めないのがいや。」




私の質問に対しての応えにならない答えを出す杏里。
てか、私、天然じゃない。

そんなことを、思いながらもう一度廊下に目を移す。



見えた先には無表情な男の子が、元気な男の子に手を引かれ女の子たちの間を縫って歩かされているところだった。




「あれ、隣のクラスの神咲 翔くんだよ。」

「あぁ!あのサッカー部のイケメンくんか」




杏里がそう言って和麻が頷きながら話す。




「そうそう。って、あんた知ってるの?」


「あー、うん。神咲と同じクラスのバスケ部のやつが話してるの聞いた。
なんでもできるイケメンくんだろ?」


「うん、でも女の子の前だとクールで塩って有名。」




そんな2人の会話に耳を傾けながら、私はその神咲くんを見つめ続ける。




"クールで塩な神咲くん"


この言葉が頭の中で無表情だった神咲くんとマッチした。