「ここか…。」
アルフは黒ずんでしまった地面を見下ろしていた。
地にしっかり足を付け…翼を折りたたんだ、人間と同じ姿で、だ。
そこは、昨夜の通り魔事件の現場だった。
遺体は片付けられていたが、おびただしい量の血の跡はまだ残っていた。
被害者は直前まで走っていたらしく、血の跡は前に長く広く伸びていた。
両側に壁がある狭い路地で、人一人やっと通れるか通れないかといった幅である。
路地から三メートルほど前方に、交番が見える。
「交番に逃げ込もうとしていた被害者を、後ろから一太刀か…。ん…?」
何かが光ったような気がして、アルフはそちらに目を向ける。
ゴミが溢れんばかりに入れられている青いバケツの上…。
「これは…?」
アルフは人差し指と親指を使い、器用にそれをつまみ上げた。
それは、豆電球のように頼りなく光る何かの刻印であった。
直径は五センチ弱、薄さは三ミリ強。真中に猛る竜の姿が描かれた、人間の目には見えない特殊な印。


