「はあはあ…はあ…」


彼女は逃げていた。

暗闇のため、障害物に度々ぶつかりもするし、自分がどの辺りを走っているのか正確にはわからない。


…ただ、追って来る者から逃げることしか頭に無かった。



(あと少し…!あそこに見える光を頼りに走れば…!)


彼女の体力は限界に近かったが、決して足だけは止めない。


ザッ…ザザッ…ザッ…と、地面と靴の擦れる音が聞こえてくる。

“そいつ”も追跡の手を緩めることなく、執拗に追って来ていた。



「はあはあ…この角を曲がれば…あの光の所に…」


ザシュ!





………ドサッ。


彼女は声も無く倒れた。背中からは鮮血が溢れている。

恐らく…即死であろう。



「ククク…。」


笑っていた。

躊躇なく殺人を犯した“そいつ”は、笑いながら夜の闇に消えていったのだった………。