恋化石(仮)


 ソファーに体育座りをするのが癖だ。

無理をして八畳の1Kの部屋に置いた小さなソファーと違って、膝を抱えて座っても、ゆとりがある。






 匡輔の寝息しか聞こえない室内は、穏やかな空間だ。

何もすることがなくて、ひたすらソファーの上で体勢を変えると、寝だめの欲が勝ってしまっていた。








「お前本当よく寝るのな。子供かよ」



 くくっと肩を揺らしながら浮かべる匡輔の笑い声で、目が覚めた。

社内で見る姿とは全く違い、思わず凝視してしまう。


さらなる笑みが爆笑に代わり、匡輔は声をあげて笑っている。ぽかんと口をあけた柚衣子は、置いてきぼりになった気分だ。





 急いで乱れた髪の毛を手ぐしで梳くと、頬に匡輔の手が触れる。

レザーのソファーに乗せた頬にくっきりとついた痕をなぞるように触れていた。

感じたことのない空気に、どう反応すればいいのかもわからずに、身体を強張らせた。






 つき合っているわけでもないのに、一線を越えた後でも、匡輔のように自然に振る舞うのが礼儀なのだろうか。




笑みを浮かべる匡輔に倣って、柚衣子も笑みを浮かべると、匡輔は目を細めている。

ぎこちなさに笑っているのかもしれない。



「悪かった。……初めてなら、こんなやっすいホテルにするの、やめりゃよかったな」



 「逆にすみません」、と言いたいくらいの柚衣子だったが、何を言ったらいいのかも皆目見当がつかず、スカートをきゅっと握りしめた。





「……できれば忘れてください……」




 俯いた菜子の涙声には、匡輔はただただ微笑んでいた。