生々しさに耐えられなくて、急いで入口のドアに駆け寄ると、ガチャガチャとドアノブを上下させようとしても動かない。
背中に痛いくらいの匡輔の視線を感じる。
「開かねえぞ。ここ、部屋毎に清算だから。古いタイプだな」
いわゆるラブホテル、なのだろうか。
外見ばかりを目にしていて、入ったことなどないから仕組みがわからない。
自分の地元の田舎のラブホテルは、お城みたいに主張していて、そこはかとなく浮いている、ということくらいしかしらない。
「そ、そうなんですか」
忙しなく動かした手をドアノブから放すと、向けていた背中を勢いよく振り返ると、煙草に火をつけようとしていた匡輔が目に入った。
謝罪会見よりもずっと深いお辞儀をして、「すみません!」とはっきりとした声で陳謝した。
「お願いです、他の人には言わないでください……」
肩にかけたカバンを掴む手に力がこもる。
匡輔の反応を見るのが怖くて、顔をあげられない。
アラサーで経験もないなんて、社内で知られたら、居場所がなくなってしまう。そうなったらもう仕事を辞めるしかない。
「眠いし、ちょっと寝たいんだけど」
紫煙をくゆらす匡輔は、いつの間にか下着を身に着けている。
ようやくあげた柚衣子の目に映ったのは、笑みを浮かべる匡輔の顔だった。
もう三十分待てば始発も出る。二人でいるのも気まずい。
説得を試みようと匡輔に嘘の予定を口にしてみると、出入りはお金を支払った後にしかできないという。
お金を払うまではドアは自動でロックされ、出入りは自由でないのだというのは、初めて聞いた知識、そして経験だった。
古いと口にするタイプだから、きっと現代のホテル事情には時代錯誤なのだろう。
それすらも把握できない、自分は、もっと滑稽だ、と落ち込んでしまう。
「……言わねえから。とりあえず、こっちくれば」
今しがた身体を沈めていたベッドに腰かけた匡輔は、ぽんぽんとベッドを叩いている。
さすがに隣で寝るのは躊躇われる。
近くに置かれた二人掛けのソファーに腰かけると、「ま、いいけど」と、匡輔は枕に顔を埋めた。

