風が頬をとおりすぎてゆく。

バイクって気持ちいいなあ。

「ねーねー春山ってなんで金髪?」

風に言葉を飛ばされないように大きくしゃべる。

「別に。にーちゃんに染められてからずっと」

春山も大きな声で返した。

「ふうん……」

"不良"じゃないのかな。

バイクはピカピカのくろいろで、男の子が憧れそうなの。

スカートがめくれないようにしっかりと、足を閉じた。



ブルン…………。

「ほい、今朝のチャリんとこ。」

春山は今朝、私が事故したところでバイクを止めた。

自転車は誰かが回収したのかなくなっていた。

今朝、か。

遠い、遠い、昔みたい。

「じゃ、ありがとう!」

私は笑ってお礼をいう。

どうせ、また、ひねくれたこと言うんでしょう?

そう思って顔を上げる。

そしたら、

「おう。」

と、かすかな、ほんとにかすかな笑みを浮かべていた。

は、春山……。

「何だ、お前、俺んこと好きなんだな、はっ。」

…………。

…………。

またそういうこと言う。

さっきのは見間違えね!

私はパシッと春山の腕を叩いて、

自分の家まで走って帰った。

走ったのは、

なんとなくの、気分。

体がフワフワと軽かった。


うん、フワフワと。ね。




ピピピピッ。

「……38.1℃……か。」

次の日起きたら体がものすごくだるくて。

ねつをはかると、このありさま。

昨日のフワフワはこれだったのか。

熱が出るなんて久しぶり。

そばにおいてあるポカリに口をつけ、少し、飲み込んだ。

目をつぶると、

昨日の景色が鮮明に浮かんできた。

ぶっきらぼうな春山。

本当は優しい春山。

すこしだけ、ほんのすこし、笑った春山。

太陽、みたい。

春山 太陽。

ぴったりの名前。

そんなことを考える私のほっぺは、

ユルユルに緩んでた。