「ちょっと、どうしたの?寝ぼけてるんじゃない?」
桜木さんはそう言ってクスリと笑う。
そんな彼女の白く細い指には、今までなかったシルバーリングが光っていた。
「あ…結婚したんですか?」
「うん。」
微笑む桜木さんは、本当にきれいに私の目に映った。
結婚は、やっぱり幸せなのかな。
父親を知らない私には、よく分からない。
お母さんを見ていても、あまりいいものには思えないし。
「幸せ、ですか?今」
気付いたら私はそう言っていた。
変に思われたかもしれない。
「もちろん。とても幸せよ」
私の口から落ちたように出た変な質問だというのに、目を細めて答えてくれた。
その余裕さが眩しかった。
今の私には眩しすぎて、幸せだと胸を張って言える桜木さんがすごく羨ましいと思った。
遠い人とさえ思ってしまう私は、ダメな人間なんだろう。
自分から進んでいかなければ何も変わらないことは知っている。
知っているけれど
そんなのすぐに潰れてしまう。
そこが私の弱さなんだ。


