「達哉、似合うじゃない、その姿」

 今日は受賞式の日。

 その日に合わせ背広を新調した。真新しい背広、一つぐらい持っていても損ではないと、少しいいものをそろえた。

 「ごめんね達哉。一緒に行ってやれなくて」

 沙織は前の日から頭痛がすると言って休んでいた。それにあまり人の多い所は苦手だから、僕を見送ることにした。

 「大丈夫だよ僕は。それより沙織の方は大丈夫か」

 「うん。昨日よりは大分いいよ」「そうか」

 お母さんが「立派よ達哉さん」とほめてくれた。

 そしてお父さんが「門出だ」と言って沙織と二人で写真を撮ってくれた。

 「お父さん、ありがとう。私たちの門出に。記念に。ありがとう」

 と少し涙ぐみながら沙織は礼を言った。

 その日の朝は少し曇り空になっていた。

 「降らないといいんだけど」僕はぼっそり呟く。

 「それじゃ、行ってきます」

 「がんばって、達哉」そう言って沙織は僕を見送った。

 電車を乗り継ぎ、僕は会場に着いた。着いたとたん、物凄く緊張した。そこに集まる人々を目にして、その威圧感に押される様に緊張した。

 授賞式の前に式の流れを説明された。一言挨拶を言わなければいけない事を告げられ、さらに緊張した。僕は本当に人前でのあいさつは苦手だ。

 カチカチになっていると、そっと僕の肩に触れる手を感じた。

 その方を見ると、優子が微笑んでいた。

 「優子、どうして」

 「あら、私がいちゃいけない」「あ、いや……」

 うふふふ、と笑いながら

 「招待されたのよ。いろいろと出しているからね」

 「そうなんだ。驚いたよ」「そうでしょ」「ああ、ほんとに」

 優子と話をしていると、少し緊張がほぐれてくるような気がした。

 受賞式が始まった。

 僕の名前が呼ばれた。

 緊張しながら僕は、表彰の盾と副賞の賞金を手にした。

 そして書籍化の紹介がなされた。

 席に戻る途中、目に入った優子の顔は優しく、そして晴れ晴れしく僕を見てくれていた。

 表彰式のパーティーの時

 「残念ね沙織さんも来たかったのにね」と僕に沙織がこれなかったことを言ってくれた。

 その後、優子からそして審査員たちから出席されていた作家を紹介され挨拶に回るのに大変だった。