「アノー、スミマセン…」

誰かに声を掛けられました。 男性にしてはあまり低くない、優しそうな声です。
たどたどしいので、異人さんでしょうか…。

自分で言うのも変な話ですが、私の父は英国人です。 祖母に聞いたところによると、祖父も異人さんだったそうです。
母は顔立ち以外に、髪の色がやや抜けているくらいで「天狗のような日本人」で通じるのですが、父はそうもいきません。

私は9人の兄弟姉妹の中で、父の色を色濃く受け継いだらしく髪はふわふわの赤毛、目は狼のような色なのです。顔も平たくはないのでしょっちゅう異人さんと勘違いされてしまうのです。 間違ってはいないのですが。

「はい?」

声を掛けてきた人は、天狗のように大きな鼻に、榛色の不思議な瞳をしていました。 髪は黒いのですが、一目で異人さんだと分かりました。

「南山手、ノ教会ハドコデスカ?」

「南山手の教会?」

居留地といわず、この町にはたくさんの教会があります。 昔、カトリックの教えが広まったこの町では現在でもカトリックの教会が多いのですが、南山手にあるのはプロテスタントの教会です。

私の父も、プロテスタントの教会の牧師なのです。

「この道を登って、白い建物が教会ですよ。 私も途中まで行くので一緒に行きませんか?」

「ヨイノデスカ? アリガトウゴザイマス」

この方、たどたどしいけれど言葉は分かっているみたい。
私は異人さんからみたら英語が達者とは言えないはずなので、もし通じなかったら恥をかくところでした。